Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
ブラジルから六本木に届いた心地よい風
2009年10月10日
イリアーヌ・イリアス・トリオ@ビルボードライヴ東京。昨年11月、「富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル」に出演して以来、約1年ぶりの来日公演だ。前回は母国の若手ギター&ドラムスを含むカルテットだったが、今回は共演歴が長いマーク・ジョンソン(b)+ピーター・アースキン(ds)とのトリオ。ジョンソンとはプライベートでもパートナーであり、トリオの一角を担っているのはイリアーヌにとって心強いはずだ。近年のレコーディング活動は、ブラジル音楽のルーツを改めて表明する部分と、ビル・エヴァンスから影響を受けたジャズ・ピアニストとしての側面を、2つの大きな柱にしている。今夜のステージもその両面が発揮されて、イリアーヌの今を体感することができた。ジャズ・サイドで興味深かったのが「ワルツ・フォー・デビイ」。エヴァンスの名曲をラスト・エヴァンス・トリオのジョンソンと共にイリアーヌが演奏することは、エヴァンスに影響された多くのピアニストにとっては羨まし過ぎる状況だ。ここでは中間部をファンキーに展開しながら、エンディングではオリジナル・ヴァージョンを踏まえて、自分らしさを表現。「あなたと夜と音楽と」では、部分的にエヴァンス・ヴァージョンをアレンジしたような演奏で、マニアックな楽しみも表現してくれた。「偽りのバイーア女」ではピアノから離れてマイクを持ち、ヴォーカリストとしての魅力をアピール。スタンダード・ナンバーの「タンジェリン」がボサノヴァの素材に相応しいことを発見したイリアーヌに拍手を送りたい。アンコールでは「イパネマの娘」「ソ・ダンソ・サンバ」のジョビン2連発で、ボサ誕生の直前にブラジルで生まれ育った出自を反映する、得難い個性を輝かせた。終演後、バックステージを訪ね、来日直前にメールのやり取りをしたジョンソンと談笑。イリアーヌの温かい人柄にも触れたのだった。