今回JazzNorway in a Nutshell (略称=MaiJazz)に招待された関係者は、その目的ゆえノルウェーのミュージシャンを優先して観るようにスケジュールが組まれている。フェスティヴァル・プログラムにはウエイン・ショーター4、ジョン・スコフィールド、エンリコ・ラヴァといった他国のビッグ・ネームもブッキングされているのだが、断念せざるを得ないのが残念ではある。今日は午後1:00からスタヴァンゲル大聖堂前広場でアンデイ・シェパードのフリー・コンサート。英国のシェパードは80年代にAntillesからデビューし、当時センセーションを巻き起こしたテナー&ソプラノ奏者だ。近年は200人規模のサックス・アンサンブルのオーガナイザーとしても活躍中で、若手時代とは異なる独自の表現領域を開拓してきた。今回のステージは子供から大人まで、プロとアマが混ざり合った男女約80人のサックス・クワイアを率いたパフォーマンス。シェパードのソロに導かれて、クワイアのメンバーが列をなして登場し、ステージ前の観客の間をぬって円形に陣取る。続いて順にステージに進み、全員が揃ったところでシェパードがフロント中央に現れた。演奏はシンプルなリフを基本としたもので、これはメンバーの技術的な差をカヴァーできるアイデアだったと思われる。ステージが狭いため、広場中央で指揮者がディレクション。佳境に進むと、シェパードも指揮をとり、2人が交互にクワイアに指示を出す展開へ。キャリアの違いを超えたノルウェーのサックス・アンサンブルを見事に統率したシェパードの、国境を超えた素晴らしい仕事ぶりに唸った。
午後7:00からはオレゴン@セント・ペトリ教会。アメリカからのビッグ・ネームの1組であり、以前アルバムをリリースしたことやメンバーのラルフ・タウナーが現役の所属アーティストであることを踏まえれば、ECM特集の番外編と言っていいかもしれない。ぼくは30年以上ものファンなのだが、今まで生で観る機会はなかった。なかなか来日公演が実現せず、おそらく今後も期待できそうもない。そんなこともあって、今夜は長年の夢が現実になるステージだ。タウナーのギターで始まった演奏は、たちまち教会のアンビエンスに融け込み、このユニットを体感するための最上の空間であることを知った。オレゴンといえばニューエイジの先駆的存在とも捉えられているようだが、MCも務めたポール・マッキャンドレスはそんな固定観念を吹き飛ばすほどの熱演を披露。顔を紅潮させながらオーボエとイングリッシュホルンを吹奏する姿に、創立メンバーの揺るがない信念と創造性を聴いた。タウナーがギターとピアノを弾き分けることの音楽的効果にも、改めて魅せられ、唯一無二のオリジナリティ豊かなサウンドを堪能した。最近他界した友人に捧げた「1000 Kilometers」のドラマティックな旋律と、マッキャンドレスの迸るジャズ・スピリットに感動。気がつけば加入から10年以上が経つマーク・ウォーカー(ds,per)は、バンドをドライブさせるエネルギーの要として、存在感を印象付けた。グレン・ムーア(b)のテクニシャンぶりは言わずもがな、である。
9:00からはフローデ・シェルスタ・サーキュラシオン・トータル・オーケストラ2008@Tou Scene。60歳を迎えたスタヴァンゲル出身のサックス奏者が組織した、12人編成のバンドである。インゲブリクト・ホーケル・フラーテン(b)、ポール・ニルセン=ラヴ(ds)らノルウェーの若手と、ボビー・ブラッドフォード(cor)、サビア・マティーン(ts,cl,fl)、ルイ・モホロ(ds)の黒人勢が合体した“呉越同舟”風の大所帯は、ステージに揃っただけでユニーク。伝統的なフリー・ジャズのスタイルにエレクトロニクスのノイジーなサウンドが刺激を注入する展開は、過去と現在が結びついた北欧ジャズの現在として、面白く聴いた。

