Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2007年12月アーカイブ

2007年12月04日

MANY SEASONS LIVE

 複数のライヴが集中することは珍しくない。だが今日は4件のライヴが重なってしまった。こんなことは初めてである。結局2公演をはしごすることにした。まず18:00開演のケイ赤城トリオ@タイム&スタイル・エグジステンス。南青山の根津美術館裏手に位置する家具販売店の2Fが、ライヴ・スペースとして用意された。以前、系列の自由が丘店でカーステン・ダール・トリオを観たことがある。今夜は同店が新たに立ち上げたレーベル「TIME & STYLE JAZZ」からの第1弾リリースを記念した、関係者向けのステージ。最初の30分で失礼し、次に移動しようと思って訪れたのだが、なかなか始まらない。メンバーが登場したのは20分遅れの18:20だった。ケイ赤城の生演奏は何度も観ているが、鋭く重厚なタッチとピアノ全体を鳴らす技術は、日本人屈指のプレイヤーだと思っている。結局1曲だけ聴いて、後ろ髪を引かれつつ会場を後にした。
 表参道から至近なのが幸いだった。19:00開演の西山瞳トリオ@代々木上原「MUSICASA」へ。新作『メニー・シーズンズ』のリリース記念コンサートである。メンバーは西山(p)+坂崎拓也(b)+加納樹麻(ds)。アキコ・グレースとの共演でも知られる加納が加わった西山トリオは、この日が初体験だったのだが、なかなか強力なビートを叩き出し、新鮮な光景が現出した。関西を拠点に活動中の西山は、東京のライヴ・シーンでも着実にステップ・アップしている。

2007年12月05日

ノルウェーの新世代デュオが来日

 ホーコン・コーンスタ&ホーヴァル・ヴィークを「新宿ピットイン」で観る。共に1970年代生まれの彼らは、2003年にデュオ・チームを結成。これまでMoserobieからスタンダードとジャズ・ナンバーを中心に選曲した2枚のアルバムをリリースしている。2日連続公演の2日目にあたる今夜は、ソロとデュオの2部構成だった。ファースト・セットはヴィーク(p)のソロ・パフォーマンス。ヴィークは6月に新作『アーケイズ・プロジェクト』のリリースに合わせて、ピットインに自己のトリオで出演しており、アトミックやモティーフでの来日も含めると、近年急激に日本で認知されてきているノルウェー産ジャズの、象徴的なミュージシャンの1人と言っていい。ステージでは今年リリースしたソロ・ピアノ作『Palinode』の世界を披露してくれた。時折マシンガンのような速射砲奏法を織り交ぜたパフォーマンスは、ヴィークのスキルを伝えるのに十分なものだった。セカンド・セットのデュオではアネット・ピーコック、カーラ・ブレイ、オーネット・コールマンといった個性的なミュージシャンのナンバーに加え、アルバム未収録のソニー・ロリンズのカヴァーも演奏。会場が満員とはいかなかったのは残念だが、なかなか日本に居ながらにして観ることのできないステージだけに、十分に堪能できたのだった。

2007年12月06日

スカンジナヴィアン・コネクションの新展開

 スウェーデン在住のベーシスト、森泰人が同国と日本の架け橋となって来日ライヴをシリーズ化してきたことは、この日記でもたびたび書いてきた。今夜は数々の秀作と来日公演を通じて多くのファンを獲得しているラーシュ・ヤンソン・トリオを「新宿ピットイン」で観た。ピアノのラーシュには過去何度もインタビューをし、国内盤のライナーノーツも執筆してきた。ドラムスのアンダーシュ・シェルベリは7月のストックホルム取材で連日顔を合わせた間柄。森さんとは飲み仲間でもある。トリオは東京での定番となっているジャズ・クラブに加えて、今回ピットインに初登場した。実はぼくが森さんに出演を勧めて実現したという経緯があって、個人的に嬉しい出演でもあった。会場は立ち見も出る超満員。しかも若い女性客が多い。ラーシュが書いているビッグ・バンド用のスコアで演奏しているアマチュア・ミュージシャンが、新しいファンとして訪れたようだ。ラーシュは最近再び禅に対する関心を深めていて、この日も本番前に瞑想していたという。代表曲「ホープ」や、一家で旅行した時の印象を元に作曲した「アイスランド」等を演奏。ピットインの初公演は大成功だった。終演後、森さんと共に六本木の行きつけのダイニングバーへ。早朝まで痛飲した。

2007年12月08日

師走はさすがに忙しい

 アトリエ澤野コンサート2007@すみだトリフォニーホール。年末の恒例行事として定着したイヴェントは、今年で5回目。この時期は澤野祭り、を定例とするリピーターが多いようだ。例によってまず澤野社長がステージに登場し、前口上で観客の笑いを誘う。日本のジャズ系インディペンデント・レーベルでは最も成功した勝ち組だが、今も朴訥としたキャラクターが憎めない。ファースト・セットを務めたのは2005年公演にも出演した北川潔トリオ。新作『I’m Still Here』と同じメンバーで、ピアニストがケニー・バロンから新鋭のダニー・グリセットに交代している。セカンド・セットは今日の澤野の繁栄に最大級の貢献を果たしたウラジミール・シャフラノフのトリオ。スタンダードとジャズ・ナンバーを中心とした選曲で、常連ファンを楽しませた。個人的にはドラムスが前回のユッキス・ウオティラだったらもっと良かったと思う。
 20:30に終演後、渋谷へ移動。イディア6@JZ Brat。今年の日本におけるジャズ・トピックスの1つがイタリアン・ジャズだった。その人気の一角を占めたグループの来日公演である。70歳超のジャンニ・バッソ(ts)とディノ・ピアナ(tb)がフロントを務めるセクステット。彼らのような超ベテランが若者から支持を得ている現象が面白い。終演は深夜0:00を過ぎた。演奏の詳細に関しては1/19発売の「スイングジャーナル」2月号を参照してください。

2007年12月09日

邦人ピアニストの画期的なホール・コンサート

 今年の上原ひろみは大活躍、著しい飛躍の年となった。年初にはヒロミズ・ソニック・ブルームの新作『タイム・コントロール』をリリース。9月には1年ぶりとなるチック・コリアとの再会ステージを「ブルーノート東京」で実現。その間は世界各国でステイタスを高めるなど、今や新世代邦人女性ピアニストでは別格的なポジションを築いている。今夜は「東京国際フォーラム・ホールA」でのコンサートを観た。5000人収容のこのホールで単独公演を行うほど集客力があるジャズ・アーティストは、他に綾戸智恵しかいない。いかに凄いことかわかると思う。ジャズの枠を超えてメディアに露出し、ロック系フェスにも出演してファンを増やしてきたことが、ここに実を結んだと言えよう。同作と同じ4人組でステージに登場した上原は、オープニング・ナンバーから飛ばす。ところが演奏が終わった後のMCで、感極まって涙声になってしまう。満員の客席に感動したよう。上原は1年前の「東京JAZZ」で同じステージに立っているが、単独公演ということでまた違う感動がこみ上げてきたのだろう。思わず「日本大好き!」と叫んだのは、各国で演奏してきた上原が、母国の観客ならではの温かさを感じたから。バンドは益々結束力が固まった姿を印象づけた。さらに特筆したいのはデヴィッド・フュージンスキー。エキセントリックなギタリストというイメージがあったのだが、実はしっかりとしたテクニックに裏打ちされた男だと納得。後半では観客を煽って、クライマックスへとつなげる役割を演じたのもフュージンスキー効果だった。休憩をはさんで3時間とは、おそらく過去最長。しかし長さをまったく感じさせなかったあたり、上原の集中力が観客と同期していたからに他ならない。終演後バックステージでひろみちゃんとハグ。年明けにはこのメンバーでスタジオ・レコーディングに入るとのこと。来年も間違いなく活躍してくれるはずだ。

2007年12月10日

西アフリカの歌姫のエネルギッシュなステージ

 90年にデビューし、世界的な名声を獲得しているベナン出身の女性ヴォーカリストがアンジェリーク・キジョーだ。ブランフォード・マルサリス、カサンドラ・ウイルソンといったジャズ系ミュージシャンとのコラボレーションも重ね、今年リリースの新作『ジン・ジン』ではアリシア・キーズ、カルロス・サンタナらポップス系とも共演。言わばジャンルレスな活動を展開してきたキジョーは、現在独自のポジションを築いていると言っていい。バンドのインスト・ナンバーに続いてキジョーがステージに登場すると、たちまち華やかな雰囲気に。アフリカン・ダンスを交えながらの歌唱は力強い。生来の喉の強さを持っているのだろう。ブルースとアフリカの関係などを曲間のMCでアピールし、最期は観客への歌唱指導と客席を廻るパフォーマンスでステージと一体化した。

2007年12月13日

クリスマス・アルバム記念ライヴ

午後、神谷町のスイングジャーナル社へ。ジャズ・ディスク大賞部門賞の選考会に出席するためなり。約1時間の議論の末、無事「ニュー・スター賞」は決定した。今年の特徴としては、海外で優れたヴォーカリストが続々と登場したこと。特に近年のカナダは豊作だとの感を強くした。その後、恵比寿へ移動し「リキッドルーム」へ。以前新宿で営業していたライヴ・ハウスだが、恵比寿に移ってから訪れるのは今回が初めて。建物に入ると階段を上った2Fが受付になっており、再び1Fに降りたところが会場入り口というシステムだ。今夜はakikoの新作『ア・ホワイト・アルバム』のリリース記念ライヴである。akikoのライヴを観るのは渋谷クアトロ以来、4年ぶりくらいだろうか。オール・スタンディングの場内は満員の観客で熱気ムンムン。先般、雑誌「男の隠れ家」のためにakikoのインタビュー取材をしていて、新作に関する話も聞いている。まずクリスマス・アルバムありき、ではなく、プロデューサー小西康陽との再会コラボレーションからこのプロジェクトが具体化したという。「akiko wishes you A Happy Merry Swinging Christmas!!!」のコピー通り、楽しい雰囲気でスタート。ステージの左右にスクリーンが設置され、レトロなモノクロの動画や歌詞を映し出すアイデアは、観客に親切で好印象を抱いた。曲間のトークも等身大のakikoの人柄が滲み出ていて、会場に集ったファンの心をつかんだと思う。

2007年12月14日

イタリアの伊達男と人気クインテットの共演

先週のイディア6に続き、イタリアから今が旬のユニットが来日した。今年日本でリリースされたアルバム『ハンドフル・オブ・ソウル』のリーダー=ヴォーカリスト、マリオ・ビオンディと、新世代人気トランペッター、ファブリッツィオ・ボッソが中心メンバーであるハイ・ファイヴ・クインテットの共演ステージを「ブルーノート東京」で観た。母国のミュージシャンとコラボした様々な輸入盤で火がついて、今年Blue Noteから移籍第1弾のリーダー作をリリースし、世界レヴェルでステージ・アップ。ボッソに対する注目度が俄然高まっている中での来日となった。ステージはハイ・ファイヴのみでの演奏でスタート。続いて登場したビオンディは噂通りの大男で、魅力的な声の持ち主。挨拶代わりのナンバーとなった「リオ・デジャネイロ・ブルー」はかつてニコレット・ラーソンも吹き込んだ名曲だ。ビオンディに関してはステージ・マナーにも好感を抱いた。ライヴの詳細については「スイングジャーナル」2月号を参照してください。

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2007年12月19日

日本で季節を祝したNYのコーラス・グループ

N.Y.ハーレム・シンガーズ・クリスマス・コンサート@紀尾井ホール。ブロードウェイ・ミュージカルの音楽監督を務めるリンダ・トゥエインが1996年に組織したヴォーカル・グループの公演を観た。女性4人+男性3人の混声にピアノとパーカッションが加わった総勢9人のグループだ。黒人霊歌、ジャズ、ミュージカル、モータウンと、20世紀黒人音楽の100年の歴史から選曲したプログラムは、オイシイところを取った趣。このジャンルに知識があってもなくても楽しめるように構成されている。コーラス・アンサンブルの美しさもさることながら、個人歌唱に唸らされる場面も多々あって、斯界のアメリカ黒人の豊かな人材を再認識させられた。「エリントン・コーナー」や「ブロードウェイ、ブロードウェイ」はジャズ・ファンなら興味深く聴けたに違いない。セカンド・セットはクリスマス・ナンバーの特集となったが、突如登場したダンサーがサプライズ。ブレイクダンス?ヒップホップ系の動き、特に頭を支点にした回転技はすべての観客を魅了した。アンコールでは「きよしこの夜」の日本語歌唱をプレゼント。心地よい余韻を抱いて、帰途についたのだった。

2007年12月21日

ロシア文豪の血を引くヴォーカリスト

ヴィクトリア・トルストイがデビューした時、大きな話題になったのはロシアの文豪トルストイの末裔だということだった。その後は一部の輸入盤ウォッチャーやヴォーカル・ファンから注目を得ている存在に甘んじていたが、そんなトルストイがヤコブ・カールソン・トリオと共に来日公演を行った。会場は横浜の関内小ホール。スウディッシュ・ジャズのコアなファンが集った趣だったが、意外に思ったのは若い女性ファンが少なくなかったことだ。最初にインスト・パートを演じたカールソンは、リーダー作『Big Five』で素晴らしい演奏を聴かせてくれて、ピアノ好きの間で株を高めた。この日も持てる力を存分に発揮。CDで知っていたのと違わぬ演奏で、実力者ぶりをアピールした。「ウィール・ビー・トゥゲザー・アゲイン」「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」等のスタンダードを中心に選曲したトルストイも、あますところなく歌唱力を披露し、観客を魅了。スウェーデン語でのクリスマス・ソングで、遠い北欧情緒を伝えてくれたのも一興だった。先頃来日したマルガリータと並ぶスウェディッシュ・ヴォーカルの実力者であることを再認識してくれた夜となった。

2007年12月26日

今年を締めくくる宴

 今月も例年通りいくつかの忘年会に参加した。毎年定例となっている会がほとんどのところ、久々の復活となったのが「ジャズ忘年会」だ。約10年前にある事情のため休会となっていた。ジャズ関係者が一堂に会する機会は、1月のジャズ・ディスク大賞授賞式くらいのもので、夜に開催される会は長年途絶えている状態だった。大手レコード会社3社が幹事役となり、ところも同じ高田馬場「コットンクラブ」で無事開催の運びとなった。ぼくは1990年から最期の年まで参加し、アリス・コルトレーン、ベルギーの評論家Hugo de Craen氏といった海外からのゲストと同席している。19:30に入店すると、すでに多くの人々が歓談中。さっそくその輪に加わった。いろいろな方々と話をしてわかったのは、今回初めて参加した人が少なくないということ。この10年間でジャズ業界に入った人たちが、この宴に集ったというわけだ。ステージでは演奏がスタート。関係者のアマチュア・バンド、さらに川口雷二、岸ミツアキ、藤原清登らプロも加わって、ゴキゲンな4ビート・ジャズが演奏された。深夜0:00を過ぎても宴は続いたのであった。

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