午前10:00にラジオ・スウェーデン(SR)へ移動。西山瞳のレコーディングを取材するためだ。SRは日本のNHKにあたる放送局で、約70席を併設した「スタジオ3」に状態のいいスタインウェイをセッティングし、レコーディング・スタジオとして使用しようというわけである。参加メンバーは前作『キュービウム』同様、ベースのハンス・バッケンロスとドラムスのアンダーシュ・シェルベリ。スウェーデンのミュージシャン、スタジオ、エンジニアが揃って初めて得られるサウンドが、この環境にはあると思った。
午後は市内を散策。ストックホルムの伊勢丹と呼ばれている(?)NK(エヌコー)へ。1902年創業の老舗百貨店である。お目当ては4FのCD売り場で、ジャズ・コーナーへ行くと一番目立つ場所に『Jazz From The Fourth Floor』(Massive Music)が陳列してあった。これは来店客に生のジャズを味わってもらうために企画された同店でのインストア・ライヴのコンピレーションで、すべて同作でなければ聴けない音源である。
5:00にストックホルム・ジャズ・フェスティヴァルのメイン・ステージへ移動。地元の若手バンドJobalitesを観た。ヨナス・クルハマー(as)、ゴラン・カジュフェス(tp)、キーボード&エレクトロニクス等、3管を含む8人編成だ。
1 曲目はシンプルなリフ・ナンバー。2曲目はレゲエ・リズムによる緩いムードのサウンド。さらに聴き進めるにしたがって、レゲエ/スカ・リズムをサウンドの基調としたバンド・コンセプトが明らかになった。これはクルハマーやカジュフェスがリーダーとして活動しているバンドの音楽性とは異なる。つまり彼らにとってのJobalitesとは、日常から離れた遊び心を大いに盛り込んだバンドであることが明らかになった。そう考えると彼らのサウンドと、会場を包むゆったりとした時の流れが妙にマッチしていると感じた。
ホテルに戻り、日本人チームが集合。アンダーシュ・シェルベリを交えた6名で、レストランへ。このイタリアン店も屋外スペースのテーブル席があったが、これは店内禁煙に対する救済措置でもあるようだ。街を歩いていると、若い女性喫煙歩行者が少なくないことに気づく。北欧も国によって状況が異なるということか。ディナーの後、ジョシュア・レッドマン3を観るために「ファッシング」を訪れる。1977年に開業した同店は、今年が30周年の節目の年。フェスティヴァル・プログラムの1つなので、プレス・パスで入れるはずだったのだが、すでに満員のため入口でしばらく待機。結局半額の入場料で無事入店できた。演奏が始まったばかりで、着席と立ち見の約200人で一杯の店内は早くも熱気に溢れている。「イースト・オブ・ザ・サン」からトリオは飛ばす。新作『バック・イースト』と連動したヨーロッパ・ツアーらしく、1曲目が終わると、「ロシアから着のみ着のままやってきた」と言って、観客を笑わせた。レコーディング・メンバーであるリューベン・ロジャース(b)にPMGの
アントニオ・サンチェス(ds)が加わったトリオは、タイトなコンビネーションを披露。ジョシュアはソニー・ロリンズやジョン・コルトレーン(「飾りのついた四輪馬車」)等50年代のレパートリーを取り上げるなど、モダン・ジャズにおけるピアノレス・トリオの歴史を踏まえたコンセプトで自身をアピールした。
アンコールの「マック・ザ・ナイフ」まで休憩なしの2時間を全力投球で吹き切ったのは、日本のクラブのシステムからするとかえって新鮮。今のジョシュアの勢いを体感させるステージであった。
ヤン・ラングレン、フレドリック・ノレン、ヨナス・クルハマーら、スウェーデン・ジャズの今を映し出したトラック(2002年録音)が満載だ。定価 139Skrがセールで59Skrというのも嬉しい。ちなみにこちらでは新品が100?200Skr、新譜が180Skr前後。現在の換算レートで 1Skrが20円なので、日本よりも割高である。円が弱っている現況をこんな形でも知った。


